最高裁判所第二小法廷 昭和28年(オ)968号 判決 1955年1月21日
主文
原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人弁護士鍛治利一、同服部定雄および同輿石睦の上告理由第二点について。
原判決は、被上告人の履行に代る損害賠償の予備的請求につき、昭和二三年一〇月二三日当時における本来の給付の価額を標準として損害額を算定し、上告人に右金額の支払を命じた。しかしながら物の給付を請求しうる債権者が本来の給付の請求にあわせてその執行不能の場合における履行に代る損害賠償を予備的に請求したときは、事実審裁判所は、右請求の範囲内において、最終口頭弁論期日当時における本来の給付の価額に相当する損害賠償を命ずべきものであることは、大審院判例の示すところであつて(昭和十五年三月一三日民事聯合部判決、民集一九巻五三〇頁参照)、当裁判所は、右判断は相当でありこれを維持すべきものと考える。しかるに、原審の最終口頭弁論期日が昭和二八年四月二〇日であることは記録上明かであるから、原判決の前記損害額の認定は法令の解釈を誤つた違法があるものといわねばならない(仮に被上告人が当審において主張する如く、原判決にいう前記昭和二三年一〇月二三日とは昭和二六年一〇月二三日の誤記であるとしても、右の結論に差異を生じない)。しかも、原審の最終口頭弁論期日当時の本来の給付の価額がいくらであるかは原判決の確定しないところであるが、もしその価額が前記価額よりも低い場合には、原判決主文はとうていこれを維持することはできないから、前記違法は判決主文に影響あるものとなさざるをえない。されば論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。
よつて、その他の論旨に対する判断を省略し、民訴四〇七条に従い、主文のとおり判決する。
この判決は、裁判官全員一致の意見である。
(裁判長裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 池田克)